Airbnb Japan公共政策の取り組み|2026年7月

民泊を地域資源として捉える──大阪の特区民泊から考える民泊のあり方

高層ビルと住宅が立ち並ぶ都市と、大きな川と橋を見渡す昼間のパノラマ風景。
2026年5月29日、大阪市は特区民泊(※1)の新規受付を終了しました。大阪では訪日外国人旅行者の増加や大阪・関西万博を見据え、この制度が急速な広がりをみせました。一方で、住環境への影響や管理体制の不十分さといった課題が表面化しています。民泊は本来、宿泊需要の受け皿となるだけでなく、空き家の活用や地域活性化など、新たな価値をもたらし得る仕組みとして期待されてきました。こうした期待と課題がある中で、大阪市による特区民泊の新規受付終了は、民泊政策における大きな転換点として注目を集めています。本記事では、近畿大学建築学部建築学科 准教授・寺川政司氏に、特区民泊の拡大と終了の背景に加え、民泊本来の価値を活かすための制度設計について伺いました。※1 特区民泊:国家戦略特区に指定された地域において、国家戦略特別区域法に基づく旅館業法の特例として認められている民泊の形態。(内閣府「旅館業法の特例について)
【記事のポイント】
  • 「地域資源」:民泊は地域の課題を解決する資源にもなりうる
  • 「時間のデザイン」:重要になるのは、民泊をその時々の用途に固定せず、時間の経過や地域の状況に応じて役割を変える視点
  • 「実効性の高い制度設計」:民泊の価値を活かすためには、実効性と地域との関係づくりを踏まえた制度設計が必要
近畿大学建築学部建築学科 准教授

近畿大学建築学部建築学科 准教授 寺川政司氏

ハウジング、まちづくり、都市・地域計画を専門とし、居場所づくりを通じた地域価値の再発見に関する研究を進めている。あわせて、新たな住まいのあり方の構築やリノベーション事業、コミュニティデザインを通じた持続可能なまちづくりについて、実践的に取り組んでいる。

特区民泊の拡大はなぜ大阪で進んだのか──政策判断・需要・都市条件の重なり

■ 大阪市で特区民泊が急速に拡大した背景

ーー2026年1月時点では、他地域の特区民泊施設数が多くても500件以下にとどまる一方で、大阪市では8,000件近くに上っています(内閣府「特区民泊の実績(令和8年2月28日時点) 」より)。なぜ特区民泊は、大阪でこれほど集中的に広がったのでしょうか。大阪市で特区民泊が急速に広がった最大の理由は、行政による後押し、宿泊需要の増加、民泊に転用しやすい都市条件、民泊への参入のしやすさという4つの要素が揃っていたためです。第一に、行政の後押し。大阪では訪日外国人旅行者の受け入れを重視する方針が早い段階から打ち出されていました。国が観光を成長戦略の柱に位置づけるなかで、大阪府・大阪市も都市成長戦略の一環として観光需要の取り込みを進め、民泊の活用を後押ししてきました。知事や市長が前向きな姿勢を示したことも、拡大を促した一因といえます。第二に、将来的な宿泊需要の増加への期待です。特区民泊の導入について、議論されていた当時は、大阪・関西万博を控え、今後の宿泊需要の増加が見込まれていました。既存のホテルや旅館だけでは十分に対応できないという認識のもと、短期間で宿泊供給を増やしやすい手段として民泊が広がっていきました。第三に、大阪特有の都市条件です。大阪は空き家が多く、特に大阪市西成区などには低廉な住宅ストックが存在していました。こうしたエリアでは比較的低コストで民泊への転用が可能であり、実際に海外資本を含む事業者が建物を取得し、民泊として運用する動きが急速に広がりました。第四に、民泊への参入のしやすさです。民泊はホテルや旅館に比べて手続きが少なく、初期投資も抑えられるため、比較的始めやすいという特徴もあります。宿泊施設不足や空き家活用といった課題に対して柔軟に対応しやすかったことも、供給の拡大につながったのでしょう。
近畿大学建築学部建築学科 准教授

■ 供給拡大を優先した結果の制度運用の限界

ーー大阪市は、2026年5月29日で特区民泊の新規受付を終了するとしています。この判断の背景には、どのような課題や制度運用上の限界があったのでしょうか。大阪の特区民泊は、宿泊需要に対応するため、まず供給を増やすことが優先されてきました。民泊そのものが持つ意義や価値よりも、まず「泊まる場所をどれだけ増やせるか」に重きが置かれたということです。その結果、誰が責任を持つのか、問題が起きたときにどう対応するのかといった管理や確認の仕組みが、十分に整わないまま拡大した面があります。地域との関係づくりや管理体制が不十分なまま施設が増えたことで、騒音やゴミ出しなど、住民との生活トラブルも起きやすくなりました。さらに、民泊の管理監督機能を主に保健所が担う体制では十分に対応しきれず、行政側の負担も大きくなったと考えられます。こうした状況を踏まえると、新規受付終了は、制度の価値そのものを否定する判断ではなく、管理や執行の仕組みを伴わないまま拡大してきた構造が限界に達した結果といえます。

特区民泊新規受付終了で浮かび上がった、問題の本質

■ 民泊をめぐる問題の本質は「顔の見えない関係」にある

ーー新規受付の終了は、現状の課題に対してどのような効果があると考えられますか。そのうえで、民泊をめぐる問題の本質はどこにあると見ていますか。民泊をめぐる問題の本質は、騒音やゴミ出しといった個別のトラブルだけではなく、「誰が運営しているのか分からない」という関係の見えにくさにもあります。運営者や責任の所在が見えにくいと、問題が起きた際に住民がどこに連絡すればよいのか分からず、不信感が強まりやすくなります。特区民泊の新規受付終了は、新たな施設の増加を抑える効果はありますが、管理不届きの根本的な課題解決になるわけではありません。むしろ規制を強めることで、無許可営業などのいわゆる違法民泊が制度外で運営され、かえって把握しづらくなるおそれがあります。本来、民泊は地域と宿泊者をつなぐ存在になり得ます。しかし、地域との関わりが見えない管理によって、運営者と地域の関係が切断されているケースも見られます。その結果、問題が起きても責任の所在が見えにくくなり、地域との関係が築かれにくくなっています。この意味で、民泊をめぐる問題の本質は、個別のトラブルそのものではなく、運営者と地域との関係が見えにくくなっていることにあるといえるでしょう。

■ 重要なのは規制強化よりも制度の実効性

ーー民泊をめぐっては規制強化を求める声もありますが、今後の制度設計においてはどのような視点が重要になるのでしょうか。重要なのは、現在起きている問題に対して、早急に必要な対策や規制を整えることです。そのうえで、規制を重ねるだけではなく、ルールが現場で実際に機能する仕組みにすることが重要だと考えます。民泊を巡る課題は、騒音やゴミ出しといった生活環境の問題に加え、住まいの安定や地域コミュニティにも関わります。したがって、対応を保健所や環境衛生部局だけに集中させるのではなく、住宅、福祉、地域、観光、産業など、複数の部署が連携して受け止める体制が必要です。今後の制度設計で問われているのは、規制を増やすことそのものではなく、問題が起きたときに誰が責任を持ち、どう改善につなげるのかという実効性のある体制です。民泊をめぐっては、被害やトラブルを背景に規制強化を求める声が高まりやすい状況があります。もちろん一定の規制は必要です。ただし先ほど述べた通り、規制を強めるだけでは問題の解決にはつながりません。重要なのは制度の実効性です。つまり、ルールをつくるだけでなく、誰がどう運用し、問題が起きたときにどのように対応し、改善していくのかまで含めて設計する必要があります。そこまで整っていなければ、制度は現場で十分に機能しません。
記事の後半では、民泊がもつ本来の価値を生かすために、制度設計で必要な考え方について伺います。

Airbnb Japan 公共政策の取り組み

A person seated on a green couch holding a pair of red and black keys, with another person standing nearby wearing black pants and white sneakers on a hardwood floor.

テクノロジーと厳格なルールで守る安全

法令順守はもちろん、予約スクリーニングや予約を行う全ユーザーの本人確認、24時間対応のサポート体制を通じ、地域社会の平穏と安全を最優先に守ります。
詳細を見る
ホストが自宅の玄関先で訪問者と握手し、Airbnb Japanの公共政策の取り組みを象徴している場面

平時から備える有事の際の社会的なセーフティネット

自治体と連携協定を締結し、大規模災害発生時に被災者や支援者へ一時的な避難先を提供するプログラムを展開。平時から緊急時に備えた協力体制を構築しています。
詳細を見る
japanese host

官民連携による市場の適正化

業界団体と連携し「統合型管理システム」の導入や実効性のある法執行を提言。ルールを守る適正な事業者が評価され、違反行為が起こりにくい仕組みを整えることで、公平で透明性の高い市場環境の実現を目指しています。
詳細を見る
japanese house

空き家活用と分散型観光の推進

地方の空き家や古民家を宿泊施設として活用し、都市部から地方への人の流れを創出。Airbnbのプラットフォームを活用することで観光の恩恵を全国に行き渡らせ、地域経済に直接的な潤いをもたらします。
詳細を見る

連携に関するご相談・お問い合わせ

自治体・公共団体の皆様へ地域活性化・観光振興に関する連携

持続可能な地域活性化や空き家対策、関係人口の創出に向け、全国の自治体や団体の皆様と対話を重ねています。イベントへの出展や勉強会の開催などを通じ、地域の皆様と共に解決策を考えます。
最新の事例や活動について

企業の皆様へAirbnb Partners(企業包括連携)

Airbnb Partners は、Airbnb Japan 株式会社が立ち上げたビジネスコミュニティです。2018年に発足、現在は185(2025年3月現在)の企業・団体が参画しています。国内の多種多様な企業や団体によって、ホームシェアリング市場の成長を目指すとともに、コミュニティから生まれる新たなアイディアを実現すべく協業・連携し、日々活動しています。
企業連携・Airbnb Partnersについて
Airbnb Japan公共政策本部へのお問い合わせは、pjapan@airbnb.comまでご連絡ください。